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イノベーションマネジメントの仕組みの構築、運用は外注できない――イノベーション能力の内製化が不可欠な理由

 

戦略的イノベーションマネジメントの仕組み 第8回

 

イノベーションマネジメントの仕組み(制度・プロセス・組織・評価・学習)の構築と運用は、企業内部の価値観・意思決定・人材の行動様式と密接に結びついており、これを外部委託するのでは継続的に機能しません。仕組みは導入後に絶えず改善・学習を繰り返す必要があり、その運用自体がイノベーション能力のコア能力を形成します。外注すれば形式だけ整い、企業内部に能力が蓄積されず再現性も生まれません。仕組みを自ら運営し続け、イノベーション能力の内製化を図ることが持続的競争力の唯一の道となります。

 

イノベーション能力(Innovation Capability)―イノベーションを創出する組織能力とは何か。

イノベーション能力とは、企業が新しい価値を継続的に生み出すための「仕組み」と「組織能力」を一体で発揮する力で、企業が再現性をもってイノベーションを生み出す力のことです。

イノベーション能力は、一般的には、まず「知識の探索・統合・活用を繰り返す能力」が挙げられます1)12)。これは、情報収集、学習、問題解決、試行錯誤などの基本行動ができる能力になります。次に、企業内部だけでなく、外部の知を取り込みながら、「組織横断でアイデアを実行に移す運用力」が必要になります8)19)。さらに、経営リーダーシップやガバナンス、戦略整合性などの「経営管理能力」が、イノベーション活動を全社的に支える前提とされています1)28)。

経営学では、イノベーション能力を「単独のスキルではなく、企業の中に蓄積され、連動して働く総合的な能力」と位置づけています。例えば、Moreira 3)は、イノベーション能力を「人的能力(創造性・学習)、組織能力(知識管理・協働)、プロセス能力(アイデアから商用化までの実行)、戦略・リーダーシップ」の複合体として整理しています。また、Saunila 19) Saunila 28)は、「これらが適切に整備されることで、製品・サービスだけでなく、ビジネスモデルまで革新できる組織になる」と説明しています。

 

企業に求められるイノベーション能力の時代的変遷

企業に求められるイノベーション能力は、2000年頃から現在まで、環境変化とデジタル化の流れの中で大きく変わってきました。最初はR&D中心の「技術力の延長」として扱われていましたが、現在は、個人・組織・デジタル・エコシステムを含む多様なの能力群へ、その範囲を拡大しています。

まず2000年代前半では、イノベーション能力は「機能別組織のケイパビリティ」として定義されました。技術開発、製造、マーケティング、組織学習の強化が中心であり、技術イノベーション能力の測定も、こうした機能をどれだけ保有しているかが基準でした39)38)34)。ビジョン、構造、文化、アイデア管理など、企業内部の仕組みを整備する能力が求められました42)。

2010年頃には、環境変化への対応力が重視され、イノベーション能力には「ダイナミックケイパビリティ」の必要性が議論されました。企業は、機会を感知し(sensing)、機会を捉え(seizing)、組織や資源を再構成する力(reconfiguring)を求められるようになりました37)。さらに、イノベーション能力の測定や監査が進み、能力を測りながら能力を向上させるプロセスが重要になりました33)31)。能力の蓄積方法に着目した議論も増え、後発企業であっても、段階的な学習と外部組織の知識の取り込みによって能力を構築できることが示されました32)。

2010年代後半では、企業に求められるイノベーション能力は、成熟度、企業の条件への適合性、成果創出の能力へ定義の範囲が広がりました。企業は、自社がどのレベルにあるかを診断し、段階的に能力を引き上げることが求められました22)27)。また、産業ごとの技術強度や国の制度の違いが、能力のあり方に影響することが示され、企業は自社のビジネス条件に応じた能力設計を行う必要が出てきました24)。イノベーション能力が企業業績や競争優位とどう結びつくかが明確化され、能力は成果を生む能力へと位置づけられます25)26)。

2020年代に入ると、コロナ禍の環境やDXの進展に伴って、企業に求められるイノベーション能力の定義の範囲は広がりました。HRM、知識マネジメント、心理的安全性、個人創造性など、人材を中心にした能力が重要になり、個人・チーム・組織の多階層の能力が前提となっています15)8)10)。デジタル化の加速により、デジタル技術、データ活用、アジャイル運営を統合した「デジタル・イノベーション能力」が重視されています2)17)。また、クラスターや国家レベルのネットワークを活用し、外部組織と共創できる能力も求められ、企業は「単独で完結する能力」から「エコシステムの中で構築する能力」へ移行しています7)13)。複数のレビュー3)12)では、イノベーション能力はいくつかの能力ではなく、「能力ポートフォリオ」として複数の能力を組み合わせて運用することが重要であるといった考え方になりつつあります。

以上から、企業に求められるイノベーション能力の変遷を見ると、①内部の機能能力、②環境変化に応じたダイナミックケイパビリティ、③成熟度・ビジネス条件への適合・成果重視、④デジタル・人材・エコシステム統合能力、といった方向へと拡大し、現在は「多様な能力を組み合わせて再現的にイノベーションを生み出す力」が求められていると言えます。

 

イノベーション能力を高めると、どのような効果があるか

イノベーション能力を高めることは、企業の競争力や収益力に直結します。過去の報告では、イノベーション能力の向上の効果は業績、競争優位、組織力、事業ポートフォリオ、外部連携、国家・社会レベルに及んでいます。

(1)企業業績の向上の効果としては、イノベーション能力が高い企業は、製品・プロセスの両面でイノベーションを実現し、それが利益成長や市場シェア拡大につながることが示されていますし25)、イノベーション能力が競争優位を導出して、企業パフォーマンスを押し上げることも実証されています21)。また、技術イノベーション能力の高さが輸出競争力や財務成果に結びつくことが分かっています39)。

(2)競争優位の強化の効果としては、イノベーション能力にダイナミックケイパビリティが必要とされ、環境変化を感知し、資源を再構成する能力が競争優位の源泉になると繰り返し示されています37)45)。特に不確実性の高い市場では、イノベーション能力が高い企業ほど迅速に戦略転換できるため、業界構造の変化にも強くなります。Tesla の例では、コア・イノベーション能力がビジネスモデルイノベーションを支え、企業価値を押し上げた点が強調されています18)。

(3)組織の学習能力や変革力の効果としては、イノベーション能力を高めることで、従業員の参加、知識共有、改善活動が活性化し、組織の柔軟性が増すことが指摘されています19)。また個人レベルの創造性と組織レベルの能力が相乗効果を生み、問題解決の質を高めるとされています10)。これにより、失敗の少ない試行、探索と深耕の両立が実現し、組織の“変化耐性”が高まります。

(4)新規事業の成功率向上と事業ポートフォリオの質の改善の効果としては、ラディカル・イノベーション能力を持つ企業は、既存事業の成熟に依存せず、新しい収益源を作る力が強いことが指摘されています36)。成熟度モデルの研究では、能力レベルが高い企業ほど、新規事業が計画的に立ち上がりやすく、撤退判断も適切になると示されています22)27)。

(5)外部との協働力向上とエコシステム活用の深化の効果としては、HRM(人材管理:Human Resource Management)と知識マネジメントが整備された企業は、外部との共創・ネットワーク形成が強化され、より高度なサービスや技術革新が実現すると述べています8)。探索と深化の二重イノベーション能力が高い国や企業ほど、外部知との統合がうまく進むことが示されています7)。

(6)デジタル競争力の向上の効果としては、デジタル・イノベーション能力が高い企業はデータ活用、迅速な試作、アジャイル運営が進み、事業スピードが劇的に向上することが指摘されています2)。アジャイル成熟度の研究でも、デジタルとイノベーション能力の統合が企業価値を左右するとしています17)。

(7)企業を超えた社会的効果としては、産業全体や国家レベルでの競争力向上があります。クラスター研究では、イノベーション能力の高い企業が集まる地域は生産性が高く、雇用・研究開発投資も増えることが確認されています13)。

以上から、イノベーション能力の向上により発揮される効果は、①業績向上、②競争優位、③組織変革力、④新規事業の成功率、⑤共創力、⑥デジタル競争力、⑦社会レベルの競争力まで、幅広い範囲の効果が確認されており、企業の中長期戦略の中心に位置づけるべき能力であると言えます。

 

イノベーション能力の習得方法には、どのような方法があるか?

企業がイノベーション能力をどのようにして習得してきたのでしょうか。その方法は時代とともに広がり、内部の仕組みづくりから、組織変革、人材、デジタル、さらにはエコシステム活用まで、多層的なアプローチへと進化していることがわかります。2000年代初期は、R&D・製造・マーケティング・組織学習といった機能別ケイパビリティの強化が中心で、各機能の能力を向上させ、それらを束ねることでイノベーション能力を獲得するという考え方が主流でした39)38)34)。Lawson & Samson42) が示したビジョン、構造、文化、アイデア管理などの内部整備も、この時期の典型的な習得アプローチになります。

その後、企業が直面する環境変化が激しくなるにつれ、能力の習得方法は「変化に応じて組織や資源を再構成する力」、すなわち、ダイナミックケイパビリティの設計・運用へと展開されました。市場を感知し、チャンスを捉え、組織を作り変えるという反復プロセスが、能力を身につける上で不可欠とされています37)。また、後発企業が能力を高める方法として、複数のプロジェクト経験を通じて段階的に能力を蓄積する、学習の積み上げ方法が指摘されています32)。

2010年代では、能力を「測定しながら育てる」アプローチが広がりました。イノベーション能力の弱点を可視化し、改善サイクルを回しながら能力を高める方法が志向されました33) 38) 43)。さらに、企業全体のアーキテクチャや意思決定制度、ガバナンスを作り替える過程そのものが、イノベーション能力の形成に直結すると指摘されています26) 30)。必要な構造改革を実行することで、その変革を支える能力が企業内部に蓄積され、結果としてイノベーション能力が高まっていきます。

2020年代では、HRM、知識マネジメント、心理的安全性、個人創造性など、人材の観点や側面を整える能力獲得では、人事制度と知識管理を統合して、個人の創造性と組織能力を連動させ、イノベーション能力を高める方法が志向されています8)。個人と組織の相互作用が能力形成の鍵であることが指摘されています10)。さらに、デジタル技術とアジャイル運営を通じた能力獲得が主流になりつつあり2) 17)、クラスターや国家レベルのネットワークを活用し、企業単体ではなくエコシステム全体で能力を身につける段階7)13)では、企業は自社内では育成が難しい探索力・適応力・連携調整力を、外部パートナーとの共同実践を通して獲得していきます。複数組織での協働実験や共通プラットフォームの利用を繰り返すことで、単独企業では構築できないイノベーション能力がエコシステム全体として形成される点が特徴です。

以上から、イノベーション能力の習得とは、機能の強化に始まり、学習、動的ケイパビリティ、測定、組織設計、人材、デジタル、そしてエコシステム活用へと広がってきた、総合的な能力構築プロセスであり、企業はこれらを段階的に組み合わせて整えていく必要があるのです。

 

イノベーション能力は、イノベーションマネジメントの仕組みが前提である。

ここまで説明してきましたイノベーション能力は単独で習得して能力を向上できるものではなく、必ずイノベーションマネジメントの仕組み(制度・プロセス・組織・文化・ガバナンス)を基盤として形成されています。企業は、こうした基盤となる仕組みを整えて初めて、能力を継続的に蓄積し、再現性のあるイノベーションを生み出すことができます。

日本企業では、人材開発部門で様々なイノベーション領域の研修メニューを用意して社員の受講を推進していますが、個人的に知識を獲得しても、仕組みの基盤がなく、知識を利用する場がなければ、イノベーション能力の向上にはつながりません。

2000年代の代表的研究である Lawson & Samson42) は、イノベーション能力の前提として、ビジョンと戦略、組織構造、文化・環境、アイデア管理、技術マネジメントといった全社フレームの整備を挙げています。これは、イノベーションマネジメントの仕組みそのものであり、プロセスだけでなく、組織文化やリーダーシップも含めた広い枠組みを指しています。Guanほか 39)38)でも、R&D・製造・マーケティング・学習といったサブ能力が機能するには、それを支える構造・制度が不可欠としています。

ダイナミックケイパビリティを機能させるマネジメントは、環境変化を感知し(sensing)、機会を捉え(seizing)、組織資源を再構成する(reconfiguring)ための仕組みが前提になります37)。この三つのプロセスを動かすには、探索プロジェクトの運営方法、意思決定プロセス、権限設計、組織間連携といった仕組みが前提になります。後進企業にありがちですが、単に人材の頭数を揃えて配置すれば、発揮される能力ではなく、イノベーション実行に必要な人材を適材適所に配置できる、企業としての運営ルールが整っていて初めて機能する能力になります。

2010年代になると、仕組みはさらに制度化され、イノベーション能力の成熟度モデルや企業アーキテクチャの設計が重視されます。Narcizo22)27) は、イノベーション能力は成熟度レベルごとに必要なプロセスや組織設計が異なるとし、能力構築には段階的な仕組みが必要であると述べています。Louw30) は、企業全体のプロセス・ガバナンス・情報連携を「イノベーション型アーキテクチャ」に作り替えることで能力が強化されると説明されています。これは、イノベーション能力が組織設計そのものと直結していることを示しています。

さらに、種々の業務管理システム・KPI・ガバナンスも基本的な機能の仕組みとして必須でしょう。Grabner 26)は、管理会計や意思決定制度が、イノベーション活動に資源を配分し、リスクを許容し、探索を支援する仕組みになっているときに、イノベーション能力が実体化すると指摘します。評価制度や予算制度が保守的であれば、どれだけ人材がいても能力は発揮されません。特に日本企業では管理会計の導入が遅れており、結果の業績数字である財務会計中心の企業が多いことを考えると、この保守的な会計制度がイノベーション能力の大きな障害になっていると考えます。

2020年代の、イノベーションマネジメントの仕組みはHRM・知識マネジメント・デジタル運営・アジャイルへと範囲を拡大しています。Parwita 8)は、HRM、知識共有、個人創造性が連動する組織制度がなければ、イノベーション能力が十分に形成されないことを指摘しました。Giménez-Medina17) は、アジャイル運営を可能にする役割設計・イベント・プロジェクト管理の仕組みが能力形成の基盤と説明しています。Wu & Wu 2)は、デジタル技術の活用には、データ管理、ITガバナンス、外部連携の制度が前提になると述べています。これは当たり前の事かもしれません。

Lu や Tavares7)13) は、企業単体の仕組みだけでなく、クラスターや国家レベルの制度・ネットワークが能力形成の基盤となっており、産学連携制度、研究投資、地域ネットワークが整っているほど、企業内部の能力形成も加速すると指摘しています。

このように、イノベーション能力は、人材の才能や属人的な知識・スキルで形成されるものではなく、ビジョン・プロセス・組織構造・文化・管理制度・デジタル運営・ネットワークといった多階層のイノベーションマネジメントの仕組みが整った上で初めて形成される組織能力です。企業がこの仕組みを整えない限り、能力は持続せず、一過性の結果に留まり、イノベーションの再現性も生まれないということが世界的に共有されつつある結論です。

 

イノベーションマネジメントの仕組みの構築、運用は外注できない理由とは?

イノベーションマネジメントの仕組みは、外部のコンサル会社が一時的に作ることはできます。しかし、仕組みの構築と運用を企業内部で担わない限り、イノベーション能力は形成されず、長期的には機能しないことが一貫して示されています。繰り返しの説明になりますが、その理由をまとめてみます。

第一に、イノベーション能力は企業内部に蓄積されるダイナミックケイパビリティであるため、外注では形成されないからです。Terziovski 37) は、ダイナミックケイパビリティのsensing、seizing、reconfiguring の三つのプロセスは、企業自身が経験と学習を通じて身につけることが必要と述べています。Bell & Figueiredo 32) も、能力形成は「基本運用、改善、応用、自律開発」という組織内での累積アプローチであり、外部組織が代替できないとしています。

第二に、組織文化・心理的安全性・知識共有といった、社内でしか形成できない無形資産が、イノベーション能力の前提になるためです。Parwita 8) や Al Khajeh 15) は、HRM(人的資源マネジメント)、知識マネジメント、学習文化が能力形成の基盤であり、外部が提供できるのは最初の設計支援までで、実際の運用・改善・更新は社内でしか成立しないと指摘しています。心理的安全性や失敗から学ぶ風土といった文化要素は、外部委託では根づかず、社内の日常的な相互作用の中でしか育たない無形の組織能力だからです。

第三に、仕組みの運用には、現場での判断・試行錯誤・改善が欠かせず、それらが自社の戦略や組織条件と密接に結びついているためです。Saunila & Ukko 33) や Chiesa 43) は、イノベーション能力の向上には「測定、改善、再設計」という継続的なサイクルが不可欠であり、このサイクルは社内の日常的な実践によって初めて機能すると述べています。仕組みを導入しただけでは能力は形成されず、内部のマネジメントチームが、自社の文脈に合わせて運用を回し続けることによって初めて能力が蓄積されていきます。

第四に、ガバナンス・意思決定・資源配分といった経営管理システムが、能力形成の核になっており、これは外注不可能な領域だからです。Grabner 26) は、管理制度が探索活動への投資を許容する形に変わらなければ、イノベーション能力は組織の中で形にならないと指摘します。評価制度・KPI・権限設計は、企業の組織運営の基本条件であり、外部が運用することは本質的に不可能です。

第五に、イノベーション能力は、企業ごとの戦略や産業構造、組織の歴史に深く結びついており、汎用的な仕組みでは力を発揮しないためです。Zawislak 24) や Tavares 13) は、産業の特性や技術の強さ、クラスター構造の違いによって求められる仕組みが変わると指摘しています。どの企業にも同じ形で当てはまる能力は存在せず、それぞれの条件に合った内製の仕組みとして構築する必要があります。外部の標準モデルが定着しないのは、企業の条件と合わない部分が必ず残るからです。

以上から、イノベーションマネジメントの仕組みとは、企業の社内で学習・判断・文化・制度が連動し、初めて能力を形成する「内的プロセス」です。外注は設計の支援はできても、能力そのものを形成することはできないため、イノベーション能力を高めたい企業には、仕組みの内製化が必須と言えます。

 

どのようにして、イノベーションマネジメントの仕組みを整え、イノベーション能力を高めるか

イノベーションマネジメントの仕組みが外注できないのであれば、企業は何を優先し、どのように仕組みを整え、運用しながらイノベーション能力を高めればよいのでしょうか。経営管理レイヤー、運用レイヤー、組織レイヤー(第4回参照)の仕組みで説明できます。

まず、経営管理の仕組み(経営管理レイヤー)がすべての活動の基盤になります。Lawson & Samson 42) が示すように、ビジョン、戦略、資源配分、ガバナンスを「イノベーションを許容する方向」に設計し直す必要があります。Grabner 26) は、管理会計やKPIが探索を支援する形に変わらない限り能力は実体化しないと述べています。短期業績中心の判断基準を、探索と実験を認める方向に変えることが出発点になります。

次に、プロセス・デジタル・学習の仕組み(運用レイヤー)です。Terziovski が説明する sensing、seizing、reconfiguring 37) は、企業自身が回すことで能力になります。Giménez-Medina のアジャイル成熟度17) や Wu & Wu のデジタル・イノベーション能力2) は、迅速な実験やデータ活用を支える運営の仕組みを示しています。これらは内製化して初めて力になります。

三つ目に、組織・人材・文化の仕組み(組織レイヤー)です。Parwita 8) や Al Khajeh 15) は、人材育成、HRM、知識共有が能力形成のコア要素であると述べています。心理的安全性が低ければアイデアも学習も止まります。Nugroho 10) は、個人の創造性と組織の支援が相互作用することで能力が伸びると示しています。研修だけでなく、探索を続けられる文化をつくることが必要です。

また、能力強化には測定と改善が不可欠です。Saunila & Ukko 33)、Chiesa 43)、Yam 38) は、能力は成長する資産であり、測定しなければ強化できないと述べています。振り返りや学習ログを習慣化することが近道になります。また、Zawislak 24) や Tavares 13) が示すように、仕組みは企業固有の条件に合わせて設計し直す必要があります。他社の仕組みを移植しても定着しない理由はここにあります。

以上から、イノベーション能力を高めるには、経営管理、運用、組織の三つの仕組みを社内で整え、自社により運用し続けることが必須です。実情に合った形で判断基準を変え、実験できる運営をつくり、学習する組織を志向することで、能力が企業の中に根づいていきます。

本コラムは、江口隆夫(IDX研究所)が提唱する 「戦略的イノベーションマネジメントの仕組み」について、Note に掲載した内容をもとに公式版として再構成したものです。
Note 記事よりも体系的に整理した“原典ページ”として位置づけています。

​参考文献は、こちら

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