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戦略的イノベーションマネジメントの仕組み(3)
(5)今後、イノベーションの成功を目指す日本企業への提言

日本企業は、時価総額ランキング50位中1社、BCGのThe Most Innovative Companiesラインキング50位中2~3社といった状況ですが、今後、イノベーションの成功を目指す日本企業は、このランキング50位を目指していただきたいと考えています。このためには、欧米先進企業が、この20年で整備してきた仕組みのレベルに、早く到達し、イノベーションの成功率を画期的に上昇させることを目標にしていただきたいです。

 

仕組みの導入ステップ

戦略的イノベーションマネジメントの仕組みの導入を目指して、次のステップをご検討ください。

(1.現状把握)イノベーションの成功失敗状況から貴社の現状レベルを診断して進化レベルを特定する

まず、自社が現在どのレベルにあるかを把握します。単なる主観ではなく、本レポートの進化モデルを用いて、レベルを判定し、組織が備えるべき仕組みや能力の不足点を明らかにします。

(2.課題展開) 過去と現在のイノベーション活動から課題を抽出する
 過去に取り組んだ新規事業や、現在進行中のイノベーションプロジェクトを振り返り、失敗や停滞の原因を構造的に整理します。その中から「仕組みの不備」「組織の弱点」を浮き彫りにします。

(3.解決施策の導出)進化モデルの上位レベルを目指して、必要な施策を導き出す
 診断で明らかになった課題を、進化モデルのフレームと照合し、上位のレベルに進むための施策を特定します。制度やプロセス、人材育成などを要素ごとに検討し、改善すべきアクションを定めます。

(4.実行計画の策定)解決施策を実行可能な計画に落とし込む
 特定した施策を実行タスクに分解し、役割・責任・期間を設定して計画化します。必要に応じて外部の知見も取り込み、実行力を担保する仕組みを整えます。

 

具体的なの取組み

既にある程度、イノベーションを実施してきたし、仕組みもあるので、イノベーションを継続させ、持続的な成長を図りたいといった企業(おそらく進化モデル2)が実施するべきこととして、短中長期の実現期間、高中低の不確実性レベルでイノベーションプロジェクトを3つのホライゾン(7)に分類し、バランスよくイノベーションへの投資を行うポートフォリオマネジメントと、最低でも、戦略との整合、投資配分やプロジェクトの継続、中止など意思決定の基準を決めて、イノベーションから収益事業化までの工程を可視化して管理すること(以上、進化モデル3)を推奨します。この一連の仕組みは、本レポート第3章の経営管理レイヤーに記載しました。*仕組みの進化モデルは第6章で詳述。

今後、イノベーションの成功率を少しでも高めたい企業は、まずイノベーションプロジェクトを支援する組織をご検討ください。プロジェクト数が少ない場合は、1人の担当者でも結構です。イノベーションの成功率を高めるための施策は多岐にわかりますが、これはイノベーションプロジェクトがすべて実行することは難しく、イノベーション支援組織が支援、推進します。実施内容は、第3~5章に詳細説明があり、組織の役割は第5章で説明していますので、ご参考ください。

 

期待される効果

これらの施策を導入することで、日本企業は以下の効果(ますは目標です。)が期待されます。

  • 新規事業成功率の向上:現状の10%未満から、先進企業が実現した目標水準(50%程度:P&G)に近づける。

  • 収益多様化と成長市場進出:低収益事業に偏る構造から脱却し、新しい成長エンジンを構築する。

  • 組織能力の向上:探索能力、学習能力、人材の活性化を通じ、持続的にイノベーションを創出できる組織能力を獲得する。一定期間で定性、定量評価をし、組織能力の向上を確認します。

  • 企業価値の改善:ROICやPBRの水準を引き上げ、投資家からの評価を改善する。

 

(6)結論

日本企業が直面する課題は、個別プロジェクトの努力では解決できません。成功率を押し上げるのは、経営管理・運用・組織の三つのレイヤーを連動させたイノベーションマネジメントの仕組みです。失敗原因の多くは経営側の環境整備の欠如に起因し、現場だけで変えられる範囲は限られます。だからこそ、経営者が意思決定の仕組みを整え、資源配分とイノベーションプロセスの進捗基準などの管理ルールを明確にし、関係する組織に受け皿を用意することが出発点になります。

本レポートは、失敗原因の体系化、仕組みの世代論に基づく目標設定、三つのレイヤーの実装ポイント、成熟度に沿ったロードマップを提示しましたが、従来の慣行のように、一部を導入するような部分最適の導入ではなく、全体設計に基づく段階的実装を強く推奨します。仕組みレベルの診断で現在地を定め、過去・現在のプロジェクトから真因を抽出し、進化モデルに照らして施策を設計し、実行と学習を回し続ける。これが探索力(両利きの経営の)を段階的に高め、既存事業の収益性向上と新規事業のスケールアップを同時に実現する唯一の道筋です。

経営の強いコミットメントと、現場の学習を支える仕組みが整えば、成功率は統計的に改善します。短期の成果と中長期の成長を両立し、企業価値を持続的に高めるために、いまこそ全社で仕組みを動かす段階へ進んで頂きたいです。

 

参考文献

(1) Vogel, E. F. (1979). Japan as number one: Lessons for America. Harvard University Press.

(2) 経済産業省. (2022). 企業価値向上のための資本コスト・ROE等を意識した経営の実現に向けて. 経済産業省. https://www.meti.go.jp/

(3) KPMG FAS, & あずさ監査法人. (2017). ROIC経営: 稼ぐ力の創造と戦略的対話. 日本経済新聞出版.

(4) McKinsey & Company. (2021). 日本における新規事業開発の課題と成功要因. マッキンゼー・アンド・カンパニー.

(5) Tushman, M. L., & O’Reilly, C. A. (1996). Ambidextrous organizations: Managing evolutionary and revolutionary change. California Management Review, 38(4), 8–30.

(6) Lafley, A. G., & Charan, R. (2008). The game-changer: How you can drive revenue and profit growth with innovation. Crown Business.

(7) Baghai, M., Coley, S., & White, D. (1999). The alchemy of growth: Practical insights for building the enduring enterprise. Perseus Books.

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