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イノベーションマネジメントの4世代――進化の構造と成長メカニズムを読み解く

戦略的イノベーションマネジメントの仕組み 第3回
#イノベーション・マネジメント #新規事業開発 #経営戦略 #ISO56000 #日本企業 #DX戦略
 

前回では、1990年以降のイノベーションマネジメントの世代を探るべく、イノベーションタイプの流行の変遷、ステージゲートの進化、イノベーションプロセスモデルとその次世代形の分析を行いました。今回はこの結果から、次のように4つの世代を定義しました。
 

イノベーションマネジメント第1世代(1990~2000年)
経営環境:1990年代はグローバル競争が激化し、品質とコストの両立が経営課題となりました。製品ライフサイクル短縮により迅速な市場投入が必須となり、既存企業は新しいアーキテクチャへの適応に苦戦しました。新市場普及の「キャズム」克服が注目されました。
特徴:第1世代では、複雑化する製品開発を制御し効率的に進める機能が求められました。クロスファンクションを統括して設計・製造・マーケティングを同時進行させる能力が重要でした(30)。市場・顧客情報を早期に活用して企画段階で適合性を確認することが強調されました(21)(22)。Stage-Gate(第2世代)のゲートレビューでは投資判断と責任分担を明確化し、意思決定の透明性を確保しました(40)。また、サプライヤや顧客との外部ネットワークを通じて知識やリソースを補完し、製品普及を加速させることが必要でした。さらに、キャズムを越える戦略立案やアーキテクチャ変更への知識再構成も不可欠でした(6)(7)。


イノベーションマネジメント第2世代(2000~2010年)
経営環境:2000年代はインターネットとグローバル化が進み、外部知識活用の重要性が高まりました。破壊的イノベーションが既存企業に脅威を与え、従来の閉鎖的な研究開発では限界が生じ、外部知を取り込む仕組みとしてオープンイノベーションが広がりました(8)(9)(41)。
特徴:第2世代では、外部知識を効果的に取り込む能力が中心となりました。企業は外部の技術やスタートアップとの協力を通じて、インバウンドとアウトバウンドの両面からオープンイノベーションを展開しました(9)(41)。破壊的イノベーションに対応するため、全社の範囲で、選択と集中による投資判断が不可欠となり、Stage-Gate(第3世代)にリスク管理や資源配分を組み込んだポートフォリオマネジメントが統合され、投資の最適化を進めました(8)(24)(23)。これにより、外部と内部を接続する柔軟なイノベーション推進が可能となり、統制と開放性のバランスが整えられました。さらに、外部契約や知財ライセンスの管理を含むガバナンスの強化が必要でした。共同開発やスピンオフといった新しい事業形態が進展し、プラットフォームやエコシステムの萌芽が現れました(42)(16)。

第2世代は、イノベーションプロセスやポートフォリオマネジメントなど全社共通の仕組みが構築されました。


イノベーションマネジメント第3世代(2010~2018年)
経営環境:2010年代はデジタル化が急速に進み、顧客接点や価値提供の形が大きく変化しました。市場と技術の不確実性が高まり、俊敏な仮説検証と事業転換が必須となりました。ビジネスモデルイノベーションやデジタルディスラプションが広がり、企業はクラウドやモバイルを基盤にした新しい競争モデルに直面しました(42)(15)(16)。
特徴:第3世代では、Stage-Gate第4世代がアジャイル、リーン、デザイン思考を取り込み、短サイクルでの仮説検証と学習を重視する仕組みへ進化しました(10)(25)(26)。単一企業内を超え、プラットフォームやエコシステム全体を対象とする運営へ拡張し、外部パートナーや顧客と共創する体制が整備されました。企業はデータと顧客体験を統合的に管理し、相互に価値を高め合うプラットフォームビジネスへ転換しました。短サイクル型学習をStage-Gateに統合することで、探索と深化を両立する両利き経営(12)を実現しました。不確実性への俊敏な対応、MVPによる顧客学習(10)、迅速な方向転換や資源配分(26)、外部協働による価値共創(16)が重要となりました(42)(15)(43)。

 

イノベーションマネジメント第4世代(2019~2025年)
経営環境:2019年前後からAIがイノベーションマネジメントに本格的に組み込まれ、GoogleはAI Principles(2018)、AmazonはSageMaker Studio(2019)、AppleはCore MLを強化しました。2020年のパンデミックは企業に回復力と成長の両立を迫り、ESGやサステナビリティが経営戦略に統合されました(27)。GAIA-XやCatena-Xなど産業横断データスペースが整備され、業界・国境を超えたエコシステム構築が競争力の源泉となりました(18)(17)。デジタルツインやIoTの活用により、物理とデジタルの統合が加速しました(44)。
特徴:第4世代はAI・生成AIを前提に産業横断エコシステムを形成し、企業中心型プラットフォームから統合マネジメントへと進化しました。サプライチェーン全体を可視化し、データ駆動型意思決定で最適化を実現しました(45)(46)(44)。生成AIは設計・運用を支援し開発速度を飛躍的に高めました。モジュラー型イノベーションにより柔軟な再構成が可能となり、不確実性対応力を強化しました(47)。具体例として、SiemensはMindSphereとXcelerator、SamsungはSmartThings、NVIDIAはOmniverseを展開しました(43)(45)(48)(44)。AIとデータによる動的ポートフォリオ再配分が競争優位の核心となりました(28)(48)(47)。


イノベーションマネジメントの各世代の事例企業の業績を検証する
各世代のイノベーションマネジメントを導入した代表的な企業の業績がその後、どのように推移したか見てみましょう。
第2世代の代表例であるIBM、3M、P&Gは、2000年代にかけて「組織制度化型イノベーション」を確立し、一定の成長を実現しました。IBMは2003年に売上約891億ドルと前年10%増を記録し、P&Gは2007年に748億ドルに達し、3Mも当時は拡大基調にありました。しかし2010年代に入ると、IBMは2019年に771億ドルまで減少し、P&Gも横ばい、3Mは2020年代に入って成長が停滞しました。これらの企業は、制度や組織を整えたものの、デジタル化・プラットフォーム化という第3世代への転換に失敗した点が共通しています。IBMは、AIプラットフォームであるWatsonに代表されるように、ホライゾン2・3領域の新規事業を十分にスケールさせることができず、一方で買収を通じた事業拡大・短期的な収益確保に比重が移っていったと見られます。P&Gは「Connect+Develop」により外部連携を進めましたが、内部R&D主導の体制を完全に転換できず、共創モデルとして十分に発展・定着しませんでした。3Mは多角化が進みすぎ、経営資源の集中と再配置が難しくなり、結果として既存事業からの脱却が限定的となりました。いずれも、仕組みを構築したものの、運用・エコシステム化できなかったことが成長鈍化の核心であると言えます。
第3世代の代表例であるSalesforce、Amazon、Googleは、2010年代に「プラットフォーム型イノベーション」を確立し、急成長しました。Salesforceは2010年の13億ドルから2019年に132億ドル、Amazonは342億ドルから2805億ドル、Googleも489億ドルから1618億ドルへ拡大しました。いずれも年平均成長率10〜20%を維持し、デジタルプラットフォーム、クラウド、広告などのスケールビジネスを確立しました。2020年代も成長は続き、Amazonは2024年に6380億ドル、Googleは3070億ドルに達しましたが、成長率は10%台に鈍化しています。市場の成熟と新規領域の飽和が背景にあります。それでもこの世代は、データとユーザーを結びつけ、ネットワーク効果・規模の経済を最大化した点で画期的でした。しかし、リアル産業との統合や産業エコシステム形成が課題となっており、第4世代への移行が次の成長条件となっています。
第4世代の代表例であるSiemens、Microsoft、NVIDIAは、「産業エコシステム統合型」へ進化しつつあります。2010年代、Microsoftは1250億ドルへと拡大し、Siemensは横ばい、NVIDIAはAI需要で急成長を始めました。2020年代に入ると差は顕著になり、Microsoftは2025年に2820億ドル、NVIDIAは2025年に1305億ドルと倍増しましたが、Siemensは864億ドルにとどまりました。NVIDIAの爆発的成長はAI・GPU・データセンターのエコシステム構築に成功した結果であり、Microsoftもクラウド、AI、産業アプリケーションの統合で、第4世代の中核を担っています。一方、Siemens AGは高度な技術基盤を持つものの、重厚長大型の産業構造から脱却する転換が遅れており、デジタルツインや運用型エコシステムを活用したビジネスモデルへの移行には時間を要しています。第4世代の成長要因は、技術革新だけでなく、運用・エコシステム化・リアル統合の成熟度にあり、ここで差が生まれています。
第2世代では、制度導入後、運用が十分でない企業は成長が鈍化し、第3世代はプラットフォームで伸び、エコシステムへの拡張性で成長限界を迎え、第4世代はエコシステム運用レベルで成長の違いが見られると言えます。企業成長の鍵は、構築した「仕組み」をどこまで動態的に運用・拡張できるかにあり、仕組みの設計力から運用・実践力へと進化できるかどうかが、世代間の明暗を分けています。

イノベーションマネジメントの各世代の特徴
イノベーションマネジメントの第2世代までのイノベーションマネジメントは、主に企業内部の組織やプロジェクトを対象とした仕組みづくりでした。目的は、開発プロセスや意思決定の標準化、リスク管理、責任分担の明確化など、企業内の統制を高めることにありました。しかし、第3世代に入ると、イノベーションの対象は企業内にとどまらず、顧客・パートナー・開発者・地域など、外部を含む「エコシステム」全体へ拡張されました。つまり、仕組みの運用範囲が組織内から組織間へと拡大し、企業単体の生産性向上から、ネットワーク全体の価値創出へと目的が変化しています。
第3世代の特徴は、まず「仕組みの共有化と自律的拡張性」にあります。社内で確立したマネジメントの仕組みや人材育成プロセスが、外部パートナーにも開放され、共通の原則・ルール・文化として運用されました。これにより、エコシステム全体で統一されたガバナンスや品質基準が形成され、複数組織による分散的なプロジェクト運営が可能になりました。さらに、プラットフォーム上に蓄積されたデータをもとに、参加者自身が学び・改善し・成長できる「自己進化型の仕組み」も整備され、イノベーションが持続的に循環する環境が生まれました。
第4世代では、この仕組みがさらに進化し、管理対象が自社中心のエコシステムから、サプライチェーン全体へと拡大しています。ここでは、設計・生産・物流・保全といった各プロセスがデジタルツインで統合され、AIによる最適化がリアルタイムに行われます。これにより、製品開発や生産活動におけるリスクやコストを最小化しつつ、需要変動や品質変化に即応できる「動的なマネジメントシステム」が実現されています。さらに、複数企業が共通のデジタル基盤上でソフトウェアやデータを取引することで、サプライチェーンそのものが利益を生む仕組みへと変わりつつあります。
このように、第3世代で確立された仕組みの外部拡張とネットワーク運用が、第4世代では産業全体の統合管理へと発展しました。企業間連携を超え、産業構造そのものをデジタルで再編することが、第4世代イノベーションマネジメントの特徴となっています。
図2-4に、イノベーションマネジメントの4世代を簡単に書いた図を示します。日本企業では、全般的にオープンイノベーションが低調であると言われていることから、ここでの定義では、第1世代に当たります。欧米先進企業は、2000年代前半に第2世代を導入していますので、日本企業の最初の目標は第2世代になると考えます。この世代を超えて、直接、第3、第4世代が実施しているイノベーションを目標としても、経営の管理方法、組織能力、制度や仕組みが適応できず、失敗に至る可能性が高いと見ています。

図3-1.png
図3-1 イノベーションマネジメントの仕組みの世代
※本コラムは、江口隆夫(IDX研究所)が提唱する 「戦略的イノベーションマネジメントの仕組み」「イノベーションマネジメントの4世代モデル」について、Note に掲載した内容をもとに公式版として再構成したものです。
Note 記事よりも体系的に整理した“原典ページ”として位置づけています。


Four Generations of Innovation Management — A Structural Framework for Building Corporate Innovation Capability

参考資料はこちら
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