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戦略的イノベーションマネジメントの仕組み(1)

エグゼクティブサマリ

過去にも類を見ない「イノベーションマネジメントの仕組み」の体系化へ

本レポートは、日本企業が直面しているイノベーションの停滞を打破し、新規事業の成功率を高めるための「仕組みの全体像」を体系化したものです。従来の研究やコンサルティング会社のレポートでは、イノベーションに関する断片的な議論は数多く提示されてきました。しかし、イノベーションマネジメントの仕組みに焦点を当て、イノベーション失敗要因の体系化から仕組みの進化(成熟度)モデル、さらに実務的なロードマップに至るまでを包括的に描いた取り組みは、過去にも例を見ないものです。経営者にとって重要なのは、理論の断片を知ることではありません。自社がなぜ停滞し、どうすれば打破できるか、そしてどこに資源を投じるべきかを知ることにあります。これに応える内容を目指しました。

 

(1)背景 ― 日本企業が直面する現実

日本企業は1970〜80年代に世界市場を席巻し、米国の研究者から「Japan as Number One」と評された時代もありました(1)。しかし90年代以降は「失われた30年」と呼ばれる停滞期に入り、時価総額ランキングから姿を消し、株価純資産倍率(PBR)も半数以上が1倍を下回る状況にあります。これは株主から「将来性に乏しい」と見なされていることを示し、経営の構造的な問題を反映しています(2)。

最大の要因は、経営者が新規事業や成長分野への投資を怠り、既存事業に依存してきたことです。成熟した事業に資本を投じ続けた結果、ROE、ROIC(投下資本利益率)などの収益性指標も低迷しています (3)。この背景には、日本企業のイノベーションの成功率の低さがあり、経営者がイノベーションへの投資に躊躇している状況があります。Mckinsey 、BCG(ボストンコンサルティンググループ)は、日本企業が長年、イノベーションを生み出せない原因の一つに、イノベーションマネジメントの仕組みが未整備であることを指摘しています。近年、新規事業開発に取り組む日本企業が増えつつありますが、その成功率は依然として10%未満に留まっており(4)、この数字は日本企業の仕組みの未整備の現実を物語っています。

 

(2)世界の先進企業との比較

日本企業がイノベーションを「技術革新」と同義に捉えてきたのに対し、欧米の先進企業は1990年代以降、その発想を大きく転換しました。イノベーションは「技術」だけでなく、「市場」や「組織能力」を含めて複合的に創出されるものと捉え、経営者はそれを管理する「イノベーションマネジメントの仕組み」を整備する方向に舵を切ったのです(5)。

たとえばP&Gは2000年代初頭に、CEO A.G.ラフリーのもとでイノベーションを全社的な戦略・ガバナンス・プロセスと結びつけ、成功率を20%未満から50%以上へ引き上げました(6)。IBM、3M、そして近年ではSalesforce、Amazon、Googleといったデジタル企業も同様に、仕組みを整備することで新規事業を継続的に生み出しています。

一方、日本企業では個別の技術やサービスの小規模な取り組みが主流です。新規事業が立ち上がっても既存組織が受け皿にならず、スケールアップが困難です。その結果、個別の成功が独立した事業体にならず、企業全体の収益性や成長性にも波及しません。この新規事業と既存組織の断絶こそが、新規事業成功率の低さの真相なのです。

 

(3)分析のアプローチ

本レポートは、学術論文、ホワイトペーパーを中心とした情報を収集・分析し、

結果を整理したものです。分析アプローチ(図1)は、まず日本企業、世界の企業に

おけるイノベーションの失敗原因を抽出して整理し、これとイノベーション

マネジメントの動向から、失敗原因の解決策となるイノベーションマネジメントの

構成要素を定義しました。

イノベーションの仕組みでは、この構成要素を①本社や経営者が推進する

経営管理レイヤー、②イノベーション実行組織が運営する運用レイヤー、

③イノベーションに関わる社内外の組織体制である組織レイヤーの三つのレイヤーに

分けて、欧米先進企業が備えてきたイノベーションマネジメントの仕組みの

実務的な要件を整理しています。

最後に、仕組みと両利きの経営の組織能力のレベルで、標準的な日本企業(レベル1)と欧米先進企業(レベル3~5)を設定して、段階的なイノベーションマネジメント進化(成熟度)レベルを設定し、イノベーションに関わる仕組みの整備とともに、組織能力レベルを上げてゆく施策を実行することで、欧米先進企業とのギャップを埋めてゆくアプローチを提案しています。​​​​​

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図1 分析アプローチ

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