第2世代イノベーションマネジメントの仕組みの設計手法
― 化学産業の欧米先進企業にみる新規事業が停滞する問題の解決 ―
IDX研究所 Working Paper Vol.2 2025 江口隆夫
要旨
本ワーキングペーパーは、日本企業において新規事業開発やR&Dのための仕組みや制度が繰り返し見直されてきたにもかかわらず、同様の停滞や失敗が再生産されてきた理由を、個人の能力不足や実行力の問題ではなく、事業の構造条件とイノベーションマネジメントの仕組みの設計との不適合として捉え直すことを目的とする。本論文では、イノベーションマネジメントを、①経営管理、②運用、③組織の3つのレイヤーからなる3レイヤーモデルとして整理する。あわせて、組織構造を規定する一次条件として、①ライフサイクル期間、②用途市場構造、③技術の統合単位、④規制、⑤サプライチェーンにおける位置、という五つのビジネスコンテキスト(産業固有の条件)を提示する。これらは企業が選択できる戦略条件ではなく、産業や事業に内在する所与の条件であり、組織設計はこれらへの適合として理解されるべきである。
化学産業を対象としたDuPontおよびBASFの事例分析から明らかになったのは、第2世代イノベーションマネジメント企業に共通する本質が、特定の先進的制度や組織形態の導入ではなく、意思決定構造を起点として3レイヤーを同時に再設計している点にあるということである。DuPontは、第1世代における構造的不全を背景に、全社的な意思決定と資源配分の仕組みを再構築した。一方、BASFは、既存の事業・技術統合構造を前提に、不足していた探索機能を補完的に組み込んだ。
本論文の結論は明確である。日本企業が第1世代の試行錯誤を超え、第2世代のイノベーションマネジメントへ移行するためには、組織図や制度を先に変えるのではなく、誰が、どの時間軸で、何を基準に意思決定するのかという構造そのものを再設計する必要がある。本ワーキングペーパーは、そのための診断と設計の枠組みを提示する。
キーワード:第2世代イノベーションマネジメント、新規事業開発、研究開発(R&D)、組織構造、3レイヤーモデル、ビジネスコンテキスト、産業固有の条件、化学産業、事例分析